大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1387号 判決 1950年12月21日

主文

原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人堂野達也上告趣意第二点について。

記録によると、昭和二四年九月一七日の原審第一回公判期日の召喚状が被告人に対し公示送達の方法により、すなわちその召喚状を裁判所の掲示場に貼付しその謄本を官報に掲載することにより送達せられたものであることは所論の通りである。原審は右期日に被告人が出頭しなかったため、該期日を変更し更に次回期日を同月二九日午前一〇時と指定した。そして、その召喚状の送達は裁判所掲示場にその抄本を公示してなされたのであるが、被告人は右の期日にも出頭しなかったので原審は被告人が再度適法な召喚を受けながら期日に出頭しなかったものとして被告人不出頭のまま審理を遂げ原判決をなしたのである。ところが前示第一回公判期日の召喚状送達の際官報に掲載されたその謄本には被告人の氏名(来海宏一路)が「海宏一路」と表示されていたのであり、その後これが正誤された形跡は認められないのである。そして、召喚状には被告事件、被告人の氏名及び住居を記載すべく、被告人の住居分明でないときは、これを記載することを要しないが、その氏名が分明でないときは、容貌、体格その他の徴表を以て被告人を指示すべきものである(旧刑訴九七条参照)。しかるに本件では被告人の氏名は分明であるから、これを正確に表示すべきものであること論を俟たない。従って官報における前記程度の著しい被告人の氏名の誤記が存在したのでは、法律が「公判ニ於ケル第一回ノ召喚状」の公示送達の方式とした「其ノ謄本ヲ官報ニ掲載」することを適法に履践したものということはできない。されば原審が被告人において適法な召喚を受けながら期日に出頭しなかったことを前提として被告人不出頭のまま審理を遂げ原判決をなしたのは、旧刑訴四一〇条八号にいわゆる「別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外被告人出頭スルコトナク審判シタルトキ」に該当し、既にこの点において原判決は全部破棄を免れ得ないのである。

よって爾余の上告趣意に対する説明を省略し旧刑訴四四七条、四四八条ノ二、二項の規定に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例